マンション大規模修繕工事の際に理事長が権限濫用したと判断された事例
マンション大規模修繕工事の際に,理事長が権利濫用をしたとして,裁判になった事例の紹介です。
あるマンションで大規模修繕工事を実施するにあたり,大規模修繕工事をする業者を選定することになりました。
理事長が知り合いのX氏の紹介で,Y社の社長を紹介してもらい,Y社を工事の業者の選定に加えました。見積が一番安いY社が工事を請け負うことになりました。
工事の「予備費」として,800万円が計上されていました。
理事長が,理事会の承認を得ることなく,Y社を経由して,X氏に対して,「業務調整費」として,「予備費」の範囲内で,約700万円を支払ってもかまわないと判断し,理事長はY社に約700万円を支払い,Y社はX氏が指定するZ社名義の口座に振り込みしてしまいました。
( 理事長 → Y社(請負業者) → Z社(ブローカーX氏) )
このような「業務調整費」の支払が問題となった事例です。
裁判において,
原告側から,Z社が既に解散済であること,X氏の存在自体が疑わしいと主張されました。
(いかにも怪しい事情ですね)
被告側から,主張(反論)がされました。
X氏の調整により,Y社が工事入札に参加することが可能になった,
組合には,安価に工事を施工するY社を紹介してもらった,
X氏がY社と折衝した結果,追加代金の支払いを免れた,
しかし,それらの事実を認定できるだけの証拠はないと判断されました。
(※怪しいと思った場合,このような反論があったときには,きちんと証拠を提示してもらうのが大切だと思われます。ブラックボックスをつくるのはリスクがあります。)
結局,理事長の行為は,権限濫用であり,不法行為責任が認められました。
そして,約700万円を受け取ったY社に対しては,その金員の理由が法律上の原因がないものとして,全額不当利得返還義務が認められました。
大規模修繕工事の際には,管理組合が組合員から集めた「修繕積立金」,これを狙う輩に注意が必要ですね。
無駄に修繕積立金が流出してしまうリスクを洗い出し,それに対する対応が必要です。
組合員が無関心で,一部の理事により,独断的にすすめられる修繕工事には,大きなリスクが潜んでいます。
組合員が参加すること,透明性を確保すること,リスクを回避するための方法のひとつです。
(東京地裁平成20年6月25日判決)