1階テナントでのパチンコ店の営業を禁止できるか?裁判例から 複合用途型マンション
1階テナントでのパチンコ店の営業を禁止できるか,争われた事例がありました。
はたして,裁判所はどのように判断したのでしょうか。
「共同の利益」に反する行為かどうかが争点です。
「諸事情を比較衡量して社会通念で決するのが相当である」とこの事件の判例は述べます。
諸事情を検討するポイントをいくつか上げると,
・マンションが,繁華街にあるか,閑静な住宅街にあるか,
・店舗部分と住戸部分と間に物理的な区別があるか,
・テナントのネオンサインの有無,騒音への配慮の有無,
・住宅部分を販売する際にテナントに風俗営業をする業種が入る可能性の言及の有無,
ちなみに,この事例では,「1階店舗については,風俗営業に該当する業種を営む者が入居する場合があること」の定めがありました。
最終的に,上記ポイントでテナント側の主張が採用され,「共同の利益」に反しない,という判断となりました。
思うに,「管理規約」の規定の有無は,大きなポイントになると考えられます。
仮に,明確に規約が禁止しているのであれば,たとえ実害はほとんどなくても,認められる可能性はほとんどないと考えられます。
また,「管理規約」で営業が認められるとしても,住民への実害がひどいときには,営業禁止とまではいかないにしても,ある程度の制限が課せられることが予想されます。
いずれにしても,管理組合としては,テナントでの営業について管理するために,管理規約の見直しが肝要です。
1階にテナントが入っているマンションでのトラブル
1階にテナントが入っているような,いわゆる複合用途型マンションの話題です。
このようなマンションでは,住宅部分のみのマンションに比べると,トラブルの種が多い傾向にあります。
例えば,1階のテナントさんが飲食店の場合
考えられるトラブルとしては,騒音,臭気,喫煙,安全面の不安等などです。深夜の営業がなされている場合には,そのトラブルは深刻化することが容易に想像できます。
そこで,複合用途型マンションでは,「テナントに関する使用規則」などを設けることで,トラブルを回避しようとする試みが必要であると考えられます。
ルールに違反した場合には,「共同の利益に反する行為」に該当する場合があり,区分所有法で定められた法的な手段により是正措置をとることができます。
区分所有法57条の共同の利益に反する行為の停止等の請求,58条の使用禁止請求,59条の競売請求,60条の占有者に対する引渡請求,さらに,不法行為に基づく損害賠償請求などです。
裁判で考えられる争点は,「共同の利益に反する行為」であるかどうか。
実際に住民が悩まされているトラブルの種類が程度,
マンションが繁華街にあるか,住宅街にあるかなど,そのマンションの環境,
それらの事実を積み重ねる必要があります。
なお,考えられる反論をあげます。
深夜営業でも,共同の利益に反するとまではいえない。
テナントに関する使用規則を制定した際に,「特別の影響を与える」ものとして,しかるべき手続を踏んでいないので,規則が無効である。
以前から深夜営業をおこなっており,黙認されている。など。
午後11時以降の深夜営業を禁止した裁判例があります。
競売請求が認められなかった事例~弁護士に求められる役割
今回紹介する競売請求訴訟の裁判例(東京地判平成22年5月21日・平成20年(ワ)第900号)は,結論としては請求棄却となっております。管理費等の滞納や迷惑行為等が問題となった事件で,弁護士が果たすべき役割を考えさせられる事件でもあったこから,以下にそれが分かる範囲で紹介します。
前提として,競売請求(区分所有法59条)が認められると,管理組合は,被告所有の区分所有権及び敷地利用権について競売を申し立てることができるようになりますが,競売請求が認められるには以下の非常に厳しい必要をクリアする必要があります。この要件に沿って以下に判決内容を紹介します。
①「第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく」,
②「他の方法によってはその障害を除去・・・することが困難である」,
管理費等の滞納については,本件マンション全体における管理費のうち滞納額が占める割合が低いことや,滞納によって生じたといえる実害(必要な改修工事が実施できない状況にある等)が認められないことから障害が著しいとまでは認められない上(要件①),本訴提訴後において,被告訴訟代理人弁護士が,原告訴訟代理人弁護士に対し,滞納管理費等を一括で支払うことを申し出ており,ただ管理組合側が受領を拒絶していること,証人尋問において今後は管理費等を支払う意向を示していることから,競売請求以外に管理費等の滞納を解消し得る手段がないとはいえない(要件②),という判断を下しています。
また,共用部分にビラを貼る,居室前の階段や廊下への私物を置くなどのいわゆる迷惑行為については,既に清掃に着手し概ね片付けるに至っており障害が著しいとまではいえず(要件①),証人尋問において迷惑行為を繰り返さない旨証言しており,競売請求以外で迷惑行為を解消し得る手段がないとはいえない(要件②),という判断を下しています。
以上の理由で結論としては請求棄却で,原告側からすれば敗訴判決です。
本訴訟では,被告側には訴訟代理人弁護士が就任してます。当該弁護士がどの段階から被告側の代理人に就任したかは明かではありませんが,この弁護士が,被告を説得し,この事件を良い方向に導くに大きな役割を担ったのではなかと思われます。訴訟に勝つことだけがイコール事件の解決というわけではありません。本事件のように,訴訟には負けるも(つまり,競売請求は認められず被告を追い出すことは実現しませんが),事件の解決に繋がる(つまり,滞納管理費等が解消され,迷惑行為もストップするという良い方向に繋がる)ということもあります。滞納案件や迷惑行為案件では,相手方に弁護士がつくことはあまり多くはありません。一般的な感覚だと,なとなく相手に弁護士がつくと強敵現るといった印象を受けるかもしれませんが,むしろ弁護士が就任した方が訴訟としての勝敗はともかく,事件自体の解決に繋がる場合は少なくないと思います。
この事件がその後どうなったのかまでは分かりませんが,裁判所,弁護士,当事者といった事件関係者の期待や意向どおり無事に解決していて欲しいものです。
理事長の利益相反取引は,違法?
理事長がおこなう利益相反取引は,違法なのでしょうか。
具体例を挙げます。
例えば,マンションの駐輪場を改造する工事を行うときに,
理事長が代表取締役に就任している会社に工事の発注をする場合。
理事長の善管注意義務に違反して,違法になるのでしょうか。
①仮に工事の内容が値段に相応でない不適切なものであることが立証された場合には,違法になる可能性があります。
②また,理事長の会社が下請けに出した際,多額のリベートを受け取っていた場合には,管理組合に損害が生じたと判断される場合があり,違法になる可能性があります。
このように,①②の事実が立証された場合に違法と認定されうるのであり,必ずしも,必ず利益相反取引が違法となるわけではないです。
場合によっては,他の業者に依頼するよりも格安で工事をすることができたり,
管理組合にとってメリットがある余地も考えられます。
ある事件では駐輪場改造工事で,管理組合側が,
理事長には,「 工事業者の選定に当たっては,きちんとした工事を行う信用があり,かつ,できるだけ安い値段で請け負う業者を選定する義務 」 があると主張し,
利益相反する場合には,事前に理事会に諮った上,理事長以外のものを管理組合の代表者に選任すべきであった,と主張しましたが,
原告が,上記①②の立証をすることができず,
裁判所は原告の主張を採用せず,違法とはいえないと判断しています。
(東京地裁平成18年11月30日判決 この事件では,他にも多くの工事が問題となりました)
ただ,このような利益相反取引は,公正さを担保できていないのではないかという疑念が挟む余地が多くあります。
紛争に発展するおそれがあります。
規模や緊急性にもよりますが,
公募して,入札により,業者を選定するとか,
相見積もりをとって相場を確認するとかするのが,紛争を回避するために懸命な手段でしょう。