競売請求が認められなかった事例~弁護士に求められる役割
今回紹介する競売請求訴訟の裁判例(東京地判平成22年5月21日・平成20年(ワ)第900号)は,結論としては請求棄却となっております。管理費等の滞納や迷惑行為等が問題となった事件で,弁護士が果たすべき役割を考えさせられる事件でもあったこから,以下にそれが分かる範囲で紹介します。
前提として,競売請求(区分所有法59条)が認められると,管理組合は,被告所有の区分所有権及び敷地利用権について競売を申し立てることができるようになりますが,競売請求が認められるには以下の非常に厳しい必要をクリアする必要があります。この要件に沿って以下に判決内容を紹介します。
①「第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく」,
②「他の方法によってはその障害を除去・・・することが困難である」,
管理費等の滞納については,本件マンション全体における管理費のうち滞納額が占める割合が低いことや,滞納によって生じたといえる実害(必要な改修工事が実施できない状況にある等)が認められないことから障害が著しいとまでは認められない上(要件①),本訴提訴後において,被告訴訟代理人弁護士が,原告訴訟代理人弁護士に対し,滞納管理費等を一括で支払うことを申し出ており,ただ管理組合側が受領を拒絶していること,証人尋問において今後は管理費等を支払う意向を示していることから,競売請求以外に管理費等の滞納を解消し得る手段がないとはいえない(要件②),という判断を下しています。
また,共用部分にビラを貼る,居室前の階段や廊下への私物を置くなどのいわゆる迷惑行為については,既に清掃に着手し概ね片付けるに至っており障害が著しいとまではいえず(要件①),証人尋問において迷惑行為を繰り返さない旨証言しており,競売請求以外で迷惑行為を解消し得る手段がないとはいえない(要件②),という判断を下しています。
以上の理由で結論としては請求棄却で,原告側からすれば敗訴判決です。
本訴訟では,被告側には訴訟代理人弁護士が就任してます。当該弁護士がどの段階から被告側の代理人に就任したかは明かではありませんが,この弁護士が,被告を説得し,この事件を良い方向に導くに大きな役割を担ったのではなかと思われます。訴訟に勝つことだけがイコール事件の解決というわけではありません。本事件のように,訴訟には負けるも(つまり,競売請求は認められず被告を追い出すことは実現しませんが),事件の解決に繋がる(つまり,滞納管理費等が解消され,迷惑行為もストップするという良い方向に繋がる)ということもあります。滞納案件や迷惑行為案件では,相手方に弁護士がつくことはあまり多くはありません。一般的な感覚だと,なとなく相手に弁護士がつくと強敵現るといった印象を受けるかもしれませんが,むしろ弁護士が就任した方が訴訟としての勝敗はともかく,事件自体の解決に繋がる場合は少なくないと思います。
この事件がその後どうなったのかまでは分かりませんが,裁判所,弁護士,当事者といった事件関係者の期待や意向どおり無事に解決していて欲しいものです。