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弁護士 加藤貴士



マンション内の騒音問題~部屋で歌を歌うと騒音!?

マンション内の騒音問題に関する裁判例東京地裁平成26年3月25日判決・平成23年(ワ)第35604号,平成25年(ワ)第16760号)をご紹介します。

 

マンション内の生活騒音に関する裁判例では階上の音を問題とするものが多いですが,本裁判例は階下の音を問題としています。本裁判例において問題となった音は,階下住人の歌声でした。階上の住人は,階下の住人に対し,受忍限度を超える騒音を発生させたとして,慰謝料等の損害の支払いを求めると共に,騒音の差し止めを求めました。

 

裁判所は,原告側から主張されていた東京都の「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」(以下,「環境条例」といいます。)136条が示している規制基準(別表13・商業地域-午前6時から午前8時までは55デシベル,午前8時から午後8時までは60デシベル,午後8時から午後11時までは55デシベル,午後11時から翌日午前6時までは50デシベル)について,「騒音等の測定場所が,音源の存する敷地と隣地との境界線とされているため,本件のように音源と測定場所が上下関係にある場合にはこの基準によることは直接想定されていないということができるが,環境条例が,現在及び将来の都民の健康で安全かつ快適な生活を営む上で必要な環境を確保することを目的として定められている(1条)ものであることに照らせば」,騒音等が受忍限度を超えるかどうかの判断にあたり,「1つの参考数値として考慮するのが相当である」としました。環境条例の規制基準は,1つの指標としては他の事例でも意味を持つといえるでしょう。

 

階上の部屋に進入してくる階下住人の歌声がどの程度であったかというと,本事例では専門業者の測定結果が証拠として提出されており,これによれば階下住人の歌声の騒音レベルは最大41デシベル程度で,上記環境条例の規制基準(商業地域)を超えるものではありませんでした。

これに加え,裁判所は検証も行っており,その結果によれば,階下住人の歌声は通常人において特段不快に感じるようなものではないとも認定されています。

それでも裁判所は,深夜(午後11時から翌日午前6時)の時間帯にも階下住人が歌を歌うことが年に数回程度あったと事実認定した上で,当該深夜の時間帯の歌声に関しては,そもそも「本件マンションが商業地域内にあることはあまり重視すべきではない」とした上で,歌声が「生活音とは明らかに異質な音」であること,「その音量が41デシベルにとどまるとしても,入眠が妨げられるなどの生活上の支障を生じさせるものである」こと,「環境条例における深夜の規制基準は50デシベルであるが,建物の防音効果を考慮すると,建物内においてはより厳格な数値が求められている」ことなどから,最大41デシベルに及ぶ深夜における階下住人の歌声は,その限りではありますが受忍限度を超えると判断しました。

 

環境条例の規制基準は,第1種から第4種区域まで定められており,規制基準としては低層住居専用地域などを対象とする第1種区域が最も厳しくなっており,例えば,午後11時から翌日午前6時の時間帯の規制基準でみると,第1種区域で40デシベル,中高層住居専用地域などを含む第2種区域だと45デシベル,商業地域を含む第3種区域で50デシベル,第4種区域で55デシベルとなっています。

本裁判例は,上記のとおり,環境条例の深夜の規制基準について,建物内においては「より厳格な数値が求められている」とするものの,具体的な数値としての基準までは示されておりません。

ただ,マンションなどが含まれる第2種区域の深夜の時間帯(午後11時から翌日午前6時の時間帯)の規制基準が45デシベルであることや,少なくとも第1種区域の午後11時から翌日午前6時の時間帯の規制基準(40デシベル)を超えている点は参考になるのではないでしょう。

数値的なことだけでみれば,マンションの事例で,「音の発生が不規則,不安定な一般地域において,騒音による睡眠影響を生じさせないためには,屋内で35デシベル以下であることが望ましい」と認定している裁判例(神戸地判平成14年5月31日・平成10年(ワ)第1666号)や,「静粛が求められあるいは就寝が予想される時間帯である午後9時から翌日午前7時までの時間帯でも」40デシベルを超え,「午前7時から同日午後9時まで」の時間帯で53デシベルを超えていた場合に,受忍限度超えると判断している裁判例(東京地判平成24年3月15日・平成20年(ワ)第37366号)もあります。後者の事例では,差し止め請求についても認められています。

本裁判例では,騒音の差し止めについては,不法行為責任自体が限定的であること,階下住人が退去した後に入った賃借人から騒音被害が出ていないことなどから,差し止めまでは認められていません。

 

その他,階上の居住者は,階下の区分所有者で居住者の両親に対しても,階下居住者の違法な使用状況を放置したという不作為不法行為責任を追及し,損害賠償を求めていました。

本裁判例の結論としては,請求を否定していますが,一般論としては,専ら占有者が専有部分を使用している場合であっても,占有者をして他の居住者に迷惑をかけないよう専有部分を使用する義務はあるとし,その上で,「区分所有者は,占有者の使用状況について相当の注意を払い,もし,占有者が他の居住者に迷惑をかけるような状況を発認識し,又は認識し得たのであれば,その迷惑行為の禁止,あるいは改善を求めるなどの是正措置を講じるべきであり,区分所有者がその是正措置を執りさえすれば,その違法な使用状態が除去されるのに,あえて,区分所有者がその状況に対し何らの措置を取らず,放置し,そのために,他人に損害が発生した場合は,占有者の違法な使用状況を放置したという不作為自体が不法行為を構成する場合がある」と指摘しています。

区分所有建物を賃貸に出しているからといって賃借人の使用方法に無関心でいると,思わぬ請求を受けることもあることから,賃貸に出している区分所有者の方々においては,この点注意が必要でしょう。

 

最後に,原告側において,騒音計などのレンタル費用を損害として計上していましたが,これについて裁判所は,騒音レベルの測定は第三者の専門家に依頼することが必要不可欠であることから,当該費用については本件不法行為と相当因果関係のある損害とはいえないと判断しています。

専門家によらない測定結果についてはそもそも信頼性に欠ける面がありますので,とりあえずは参考値を把握するだけで費用を抑えるということを主眼に考えるのであれば,騒音計などをレンタルし,自ら測定するでも十分かと思いますが,あくまで訴訟を見据えるのであれば,専門家に測定を依頼することは必要不可欠といえるでしょう。

 

【参考】

都民の健康と安全を確保する環境に関する条例

(規制基準の遵守等)

第136条 何人も,第68条第1項,第80条及び第129条から前条までの規定に定めるもののほか,別表第13に掲げる規制基準(規制基準を定めていないものについては,人の健康又は生活環境に障害を及ぼすおそれのない程度)を超えるばい煙,粉じん,有害ガス,汚水,騒音,振動又は悪臭の発生をさせてはならない。

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