マンションの新たな管理ルールに関する検討会②~管理費等の滞納に対する措置について
国土交通省が,平成27年2月26日に引き続き平成27年3月27日に,マンションの新たな管理ルールに関する検討会(第11回)を開催しました。今回配付された資料(「マンションの新たな管理ルールに関する検討会 報告書(案)平成27年3月」)には,パブリックコメントの素案も盛り込まれておりました。テーマとしては大きく14項目に分類され,外部専門家の活用方法,管理組合総会における議決権割合の定め方や,いわゆるコミュニティ条項の削除といった話題となっているテーマはありますが,今回も「管理費等の滞納に対する措置」を以下に取り上げたいと思います。参考までに末尾に「管理費等の滞納に対する措置」についてのパブリックコメント素案を載せておきます。
基本的に前回検討会時配布資料の内容が踏襲されておりますが,標準管理規約の規定の体裁のみならず内容としても大きく変わる可能性があるのは,滞納区分所有者の保有資産についての調査の点です。
パブリックコメント素案によれば,標準管理規約第25条に,管理費等の納入義務に並び,区分所有者の責務として管理組合の調査に応じなければならい義務を加え,さらに管理組合が財産調査を行う際に改めて同意をとることを要しない旨も併せて規定し,これに応じる形で,管理費等の徴収について定める標準管理規約第60条に,管理組合に滞納区分所有者の保有資産の調査を必要に応じて認める旨の規定が設けられるようです。
調査の方法に関しては,一事例として銀行等本店への一括照会も実施可能となっている生活保護申請に際し行われている調査などが挙げられ,滞納区分所有者の金融資産の調査方法としても銀行等本店へ一括照会する方法が紹介されています。
管理組合の調査権が金融機関等において実際どこまで認められることになるのかは別として,標準管理規約が改正され,各管理組合においてこれに応じた規約の変更が行われた後は,区分所有法第59条の競売請求も見据え当該調査権は必ず行使されることになろうかと思います。標準管理規約の改正の際には,管理組合に過度な負担とならないよう,少なくとも管理組合の調査権制度についての金融機関等に対する周知を国土交通省には期待したいところです。
以上の他,マンションの新たな管理ルールに関する検討会(第10回)をこのブログ(「マンションの新たな管理ルールに関する検討会~管理費等の滞納に対する措置について」)でご紹介した際に触れました遅延損害金の利率の水準については,パブリックコメント素案に盛り込まれていました。
最後に,違約金としての弁護士費用の回収について,パブリックコメント素案では「その趣旨等を解説する」とされていますが,標準管理規約上の「弁護士費用」(標準管理規約第60条2項)の内容が明らかとなるような解説を期待したいと思います。この点については,「管理費滞納者に転嫁できる弁護士費用とは」で裁判例の紹介と共に触れておりますので,こちらもご参照下さい。
【今回のパブリックコメント(素案)】
○標準管理規約コメントに,管理費等の滞納への対策の重要性・意義と,それが起こった場合の悪影響等について,明記する。
○ 標準管理規約第25条(管理費等)に,区分所有者の責務として,管理費等の納入義務に加えて,管理組合が行う財産調査に応じなければならないという義務を追加し,財産調査の際に改めて同意をとることを要しないことを併せて規定する。また,同規約コメントに,区分所有法第30条により,反対をした区分所有者にも規約の効力は及ぶこと,区分所有者である限り規約の効力が及ぶため,財産調査のために改めて同意書をとることは要しないこと等を解説する。
○ 標準管理規約第26条(承継人に対する債権の行使)に,前条(第25条)の責務や同意の効力は,特定承継人にも及ぶことを,新たに規定する。なお,包括承継人に及ぶことは法的に当然であるので,同条から削除する。同規約コメントには,包括承継人に及ぶのは当然であること,また,区分所有法第46条により,特定承継人にも規約の効力が及んでいることを解説する。
○ 標準管理規約第26条において,管理費等のほか駐車場使用料についても,管理組合が有する債権は,特定承継人に対しても行うことができる旨規定する。
○ 標準管理規約第60条(管理費等の徴収)に,管理組合は,管理費等の徴収のため,必要に応じて区分所有者の財産調査を行うことができる旨を,新たに規定する(同規約第25条及び第26条に新たに追加する責務規定に対応。)。
○ 標準管理規約コメント第60条関係に,区分所有法第59条の競売の要件について,当該競売に至るような管理費等の滞納は共同利益背反行為にあたること,区分所有法第7条の先取特権の実行その他保有財産からの回収努力を講じても実効性がないこと等が59条競売の要件となること等を,根拠となる裁判例も引用しつつ,詳しく解説する。
○ 標準管理規約コメント第60条関係に,第2項の遅延損害金の利率については,必ずしも利息制限法や消費者契約法等が規定する利率以下にしなければならないわけではないこと(これらの利率よりも相当程度高い遅延損害金の利率を定めた規約の規定が公序良俗に反しないとされた裁判例があること)を解説する。
○ 標準管理規約コメント第60条関係に,違約金としての弁護士費用の徴収について,その趣旨等を解説する。
○ 標準管理規約第60条に,管理費等の徴収日を前月の○日までにと規定している部分について,徴収日は別途定めるところによると改正し,同規約コメントに,管理業者・口座(金融機関)の変更その他に伴う納付期日の変更に円滑に対応できるようにするため,と解説する。
○ 標準管理規約コメントとは別に,管理費等の滞納対策について,取り得る各種の措置を段階的にまとめたフローチャートと参考とすべき事項等をまとめた資料(マニュアル等)を新たに作成し,現場の実務に資するようにする。
(資料「マンションの新たな管理ルールに関する検討会 報告書(案) 平成27年3月」)