マンション内の騒音問題~受忍限度とは?
マンション内の騒音問題で,その騒音が違法と評価され不法行為を構成するか否かについては,いわゆる受忍限度論(一般生活上,受忍すべき限度を超えているか否かを基準に,超えていれば違法と評価する基準)によって判断されることから,当該騒音が受忍限度の範囲であるかどうかが裁判では争われることになります。
受忍限度といっても曖昧な概念で,事案によっては微妙な判断にならざるを得ません。 受忍限度を超えているか否かについて,参考となる裁判例の規範を紹介します。
「集合住宅における騒音被害・生活妨害については,加害行為の有用性,妨害予防の簡便性,被害の程度及びその存続期間,その他の双方の主観的及び客観的な諸事情に鑑み,平均人の通常の感覚ないし感受性を基準として判断して,一定の限度までの騒音被害・生活妨害は,このような集合住宅における社会生活上やむを得ないものとして受任すべきである一方,右受忍限度を超える騒音被害・生活妨害は,不法行為を構成するものと解せられる。」(東京地裁八王子支部平成8年7月30日判決・平成6年(ワ)第2699号)
上記規範と同じような基準を用いている東京地裁平成6年5月9日判決・平成3年(ワ)第10131号では受忍限度内と判断されていますが,東京地裁八王子支部平成8年7月30日判決・平成6年(ワ)第2699号では受忍限度を超えていると判断されています。いずれの事案も,床をフローリングに張り替えた後の騒音が問題となっております。各裁判例で加味されたい事情を参考までに簡単に以下にご紹介します。
受忍限度内であると判断された裁判例(東京地裁平成6年5月9日判決・平成3年(ワ)第10131号)の場合
・騒音の中身として,最小限度の構成の家族(原告・妻・長女の3人家族)による起居,清掃,炊事等の通常の生活音に限られており,原告が被告に苦情を申し入れたのも,主として妻の友人が子供を連れて遊びに来たときなどの特別の場合に限られていたこと,
・騒音の発生時間帯が比較的短時間であったこと,
・騒音を軽減するため措置もないわけではないが,仕上がり寸法の問題や過大な費用の問題から,必ずしも実際的とはいえないこと,
・原告からの苦情を受けテーブルの下に絨毯を敷き,テーブルや椅子の脚にフェルトを貼る,子どもの遊具としても騒音の発生源となる物は買い与えないなどの配慮を行っていたこと,
などの事情が考慮され,受忍限度内であると判断されています。
これに対し,
受忍限度を超えていると判断された裁判例(>東京地裁八王子支部平成8年7月30日判決・平成6年(ワ)第2699号)の場合
・フローリング敷設による階下への騒音等の問題を認識しながら,騒音等の問題に対する事前の対策は不十分なまま,管理組合規約や使用細則に違反する形でフローリング施行していたこと,
・フローリング化する前の絨毯張りの場合と比べ,防音・遮音効果が4倍以上悪化する防音措置の施されていない1階用床板材を使用したこと,
・防音措置措置(遮音材)の施されている床板材を使用すれば,相当程度防音・遮音され,その費用もそれほど掛かるものではないこと,
・騒音は2年半にわたり継続し,早朝深夜にわたることも度々あったこと,
などの事情が考慮され,受忍限度を超えていると判断されています。