マンション問題解決の手引き

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近時,マンションでは様々なトラブルが発生し,弁護士が対応した方が良い事例も増えてきております。そこで,本サイトでは,弁護士への相談が特に多い管理費・修繕積立金の滞納問題を中心に,ペット問題,迷惑行為(悪臭,騒音…)問題など様々なテーマを取り上げていこうと思います。本サイトが,ご覧頂いている皆様が抱えている問題解決の一助になれば幸いです。

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弁護士 加藤貴士



マンション標準管理規約改正案に関するパブリックコメント開始

国土交通省が,平成27年10月21日,最後に開かれた「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」から約半年の時間を空け,「マンションの管理の適正に関する指針」及び「マンション標準管理規約」の改正(案)に関するパブリックコメント(意見公募)を開始しました。なお,意見・情報受付締切日は平成27年11月19日となっております。

 

「マンションの管理の適正に関する指針」及び「マンション標準管理規約」の改正(案)に関する意見募集について(案件番号:155150730)

マンション内の騒音問題~部屋で歌を歌うと騒音!?

マンション内の騒音問題に関する裁判例東京地裁平成26年3月25日判決・平成23年(ワ)第35604号,平成25年(ワ)第16760号)をご紹介します。

 

マンション内の生活騒音に関する裁判例では階上の音を問題とするものが多いですが,本裁判例は階下の音を問題としています。本裁判例において問題となった音は,階下住人の歌声でした。階上の住人は,階下の住人に対し,受忍限度を超える騒音を発生させたとして,慰謝料等の損害の支払いを求めると共に,騒音の差し止めを求めました。

 

裁判所は,原告側から主張されていた東京都の「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」(以下,「環境条例」といいます。)136条が示している規制基準(別表13・商業地域-午前6時から午前8時までは55デシベル,午前8時から午後8時までは60デシベル,午後8時から午後11時までは55デシベル,午後11時から翌日午前6時までは50デシベル)について,「騒音等の測定場所が,音源の存する敷地と隣地との境界線とされているため,本件のように音源と測定場所が上下関係にある場合にはこの基準によることは直接想定されていないということができるが,環境条例が,現在及び将来の都民の健康で安全かつ快適な生活を営む上で必要な環境を確保することを目的として定められている(1条)ものであることに照らせば」,騒音等が受忍限度を超えるかどうかの判断にあたり,「1つの参考数値として考慮するのが相当である」としました。環境条例の規制基準は,1つの指標としては他の事例でも意味を持つといえるでしょう。

 

階上の部屋に進入してくる階下住人の歌声がどの程度であったかというと,本事例では専門業者の測定結果が証拠として提出されており,これによれば階下住人の歌声の騒音レベルは最大41デシベル程度で,上記環境条例の規制基準(商業地域)を超えるものではありませんでした。

これに加え,裁判所は検証も行っており,その結果によれば,階下住人の歌声は通常人において特段不快に感じるようなものではないとも認定されています。

それでも裁判所は,深夜(午後11時から翌日午前6時)の時間帯にも階下住人が歌を歌うことが年に数回程度あったと事実認定した上で,当該深夜の時間帯の歌声に関しては,そもそも「本件マンションが商業地域内にあることはあまり重視すべきではない」とした上で,歌声が「生活音とは明らかに異質な音」であること,「その音量が41デシベルにとどまるとしても,入眠が妨げられるなどの生活上の支障を生じさせるものである」こと,「環境条例における深夜の規制基準は50デシベルであるが,建物の防音効果を考慮すると,建物内においてはより厳格な数値が求められている」ことなどから,最大41デシベルに及ぶ深夜における階下住人の歌声は,その限りではありますが受忍限度を超えると判断しました。

 

環境条例の規制基準は,第1種から第4種区域まで定められており,規制基準としては低層住居専用地域などを対象とする第1種区域が最も厳しくなっており,例えば,午後11時から翌日午前6時の時間帯の規制基準でみると,第1種区域で40デシベル,中高層住居専用地域などを含む第2種区域だと45デシベル,商業地域を含む第3種区域で50デシベル,第4種区域で55デシベルとなっています。

本裁判例は,上記のとおり,環境条例の深夜の規制基準について,建物内においては「より厳格な数値が求められている」とするものの,具体的な数値としての基準までは示されておりません。

ただ,マンションなどが含まれる第2種区域の深夜の時間帯(午後11時から翌日午前6時の時間帯)の規制基準が45デシベルであることや,少なくとも第1種区域の午後11時から翌日午前6時の時間帯の規制基準(40デシベル)を超えている点は参考になるのではないでしょう。

数値的なことだけでみれば,マンションの事例で,「音の発生が不規則,不安定な一般地域において,騒音による睡眠影響を生じさせないためには,屋内で35デシベル以下であることが望ましい」と認定している裁判例(神戸地判平成14年5月31日・平成10年(ワ)第1666号)や,「静粛が求められあるいは就寝が予想される時間帯である午後9時から翌日午前7時までの時間帯でも」40デシベルを超え,「午前7時から同日午後9時まで」の時間帯で53デシベルを超えていた場合に,受忍限度超えると判断している裁判例(東京地判平成24年3月15日・平成20年(ワ)第37366号)もあります。後者の事例では,差し止め請求についても認められています。

本裁判例では,騒音の差し止めについては,不法行為責任自体が限定的であること,階下住人が退去した後に入った賃借人から騒音被害が出ていないことなどから,差し止めまでは認められていません。

 

その他,階上の居住者は,階下の区分所有者で居住者の両親に対しても,階下居住者の違法な使用状況を放置したという不作為不法行為責任を追及し,損害賠償を求めていました。

本裁判例の結論としては,請求を否定していますが,一般論としては,専ら占有者が専有部分を使用している場合であっても,占有者をして他の居住者に迷惑をかけないよう専有部分を使用する義務はあるとし,その上で,「区分所有者は,占有者の使用状況について相当の注意を払い,もし,占有者が他の居住者に迷惑をかけるような状況を発認識し,又は認識し得たのであれば,その迷惑行為の禁止,あるいは改善を求めるなどの是正措置を講じるべきであり,区分所有者がその是正措置を執りさえすれば,その違法な使用状態が除去されるのに,あえて,区分所有者がその状況に対し何らの措置を取らず,放置し,そのために,他人に損害が発生した場合は,占有者の違法な使用状況を放置したという不作為自体が不法行為を構成する場合がある」と指摘しています。

区分所有建物を賃貸に出しているからといって賃借人の使用方法に無関心でいると,思わぬ請求を受けることもあることから,賃貸に出している区分所有者の方々においては,この点注意が必要でしょう。

 

最後に,原告側において,騒音計などのレンタル費用を損害として計上していましたが,これについて裁判所は,騒音レベルの測定は第三者の専門家に依頼することが必要不可欠であることから,当該費用については本件不法行為と相当因果関係のある損害とはいえないと判断しています。

専門家によらない測定結果についてはそもそも信頼性に欠ける面がありますので,とりあえずは参考値を把握するだけで費用を抑えるということを主眼に考えるのであれば,騒音計などをレンタルし,自ら測定するでも十分かと思いますが,あくまで訴訟を見据えるのであれば,専門家に測定を依頼することは必要不可欠といえるでしょう。

 

【参考】

都民の健康と安全を確保する環境に関する条例

(規制基準の遵守等)

第136条 何人も,第68条第1項,第80条及び第129条から前条までの規定に定めるもののほか,別表第13に掲げる規制基準(規制基準を定めていないものについては,人の健康又は生活環境に障害を及ぼすおそれのない程度)を超えるばい煙,粉じん,有害ガス,汚水,騒音,振動又は悪臭の発生をさせてはならない。

マンション管理費滞納者の名前の公表は名誉毀損?

マンション内における名誉毀損事例の多くは,理事長等役員の職務執行行為を問題とするものですが,今回はマンション管理費を滞納している区分所有者(控訴人)が,同人の未収金対策を議案として管理組合総会に提出し審議に付すことで管理費未払の事実を公表した理事長(被控訴人)の当該行為をもって名誉毀損に該当するとして損害賠償を求めた裁判例をご紹介します(広島高判平成15年1月22日・平成14年(ネ)第391号)。

 

管理費の滞納といっても,本裁判例の場合は,毎月の管理費の内の一部(2000円)の支払を留保するなど滞納額としては合計で数万円という金額でした。控訴人は,経費節約を条件に修繕積立金の値上げに賛成したが,経費節約に理事長が消極的であったことから,支払を拒絶するに至ったようです。控訴人は,滞納額が僅少であるだけに話し合いで解決する方法を採るべきなのに,理事長がこの方法を採らずに,あえて管理組合総会に管理費等の未収金対策を議案として提出したことから,自身の社会的名誉が毀損されたと主張しました。

本件訴訟に至る迄には色々とあったようですが,原審では,控訴人の滞納につき,「経費節約問題に関する…理事の姿勢に対する批判の意を明らかにし,自己の見解の正しさを訴える趣旨で,いわば自己の正当と信じる信念に基づきあえて管理費増額分の一部を支払を留保している」というものであるから,そのことを他の管理組合員に知ってもらって何ら不都合はないはずであることから,「総会の議題とされことによって人格が傷つけられ社会的名誉が毀損されたとの主張は矛盾しており,採用の余地はなく,名誉毀損の事実を認めることはできない。」と判断されています。

さらに,原審では,「管理費の滞納自体は,管理組合として容易には受け入れ難い事態であることは明らかである…したがって,管理組合の理事長である被告及び理事らが,総会において原告の主張をも披瀝してもらった上でこの問題に対する対処方法を組合員に諮るべく,総会の議案に取り上げ提案したことは,管理組合理事として正当な職務行為といえる。よって,このことをもって原告の名誉を毀損する違法行為ということはできない。」とも判断されています。

以上いずれの判断も控訴審で維持されています。社会的評価の低下がなかったとも読めますし,正当業務行為として違法性が阻却されたとも読めるところで判然とはしませんが,いずれにしても本裁判例の事案は,滞納額や支払拒絶の理由のほか,管理組合からの未払管理費の支払督促に対し,滞納者側から,「総会の場で経費節減について主張説明し,組合員の反応をみて組合からの管理費支払督促に対する態度を決める。」との通知がなされていたなど,滞納者側で公表をむしろ望んでいるとも思える言動がみらるという,やや特殊なマンション管理費の滞納事例といえます。それが故に,他のケースに直ちに妥当するとも言い難い面があります。

 

では,本裁判例のような特殊なケースではなく,通常の滞納案件の場合(滞納者が積極的に公表を望んでいるとは思えないケース)であればどうでしょうか。

一般論として,社会的評価の低下が認められ名誉が毀損されたといえるにしても,本事例のように正当業務行為といえる場合には違法性が阻却され不法行為は成立しません。この他にも,摘示公表された事実が①公共の利害に関する事実であり(事実の公共性),②もっぱら公益を図る目的での公表である場合には(目的の公益性),③摘示された事実が真実と証明されたときも(真実性),違法性が阻却され不法行為は成立しません。

滞納の事実自体は真実でしょうから,あとは総会での審議において,滞納者の主張,滞納期間や滞納額などの他,具体的な氏名まで含め摘示することが,正当な業務行為といえるか,或いは,公共の利害に関する事実といえ,かつ,もっぱら公益を図る目的といえるか否かです。上記原審でも指摘されているように「管理費の滞納自体は,管理組合として容易には受け入れ難い事態」であることから違法性が阻却されるケースも少なくないのではないかとは思います。もちろん,事実摘示の場面が総会での審議の場面かどうかでも判断は異なってくる可能性は十分にありますので注意が必要でしょう。 

いずれにしても,あとで問題となるリスクがゼロではない以上,理事会としては,氏名まで含めた形で総会に議題として提案しようとする際には,氏名公表の目的や必要性について一考することをお勧めします。

 

マンション管理組合のコミュニティ活動に対する総務省の評価

 総務省は,平成27年5月12日,各都道府県に対し,各地方公共団体において取り組むべき事項として,「管理組合が管理の一環として行うコミュニティ活動が,自治会・町内会等の地縁による団体(以下「地縁団体」という。)が行う地域的な共同活動と同様に,良好なコミュニティの形成に資するものと評価できる事例もみられる…ことを踏まえ,各地方公共団体において,地縁団体を対象に各種の連絡・支援を行う際には,その内容に応じ,管理の一環としてこれらのコミュニティ活動を行っていると認められる管理組合等に対しても同様の取扱いを行うこと」などを通知しました(総行住第49号・平成27年5月12日「都市部をはじめとしたコミュニティの発展に向けて取り組むべき事項について(通知)」)。

 総務省は,人的関係の希薄化が進む都市部コミュニティの発展という観点から,マンション管理組合が管理の一環として行うコミュニティ活動を積極的に評価しているといえます。

 なお,マンション管理組合が管理の一環として行うコミュニティ活動に関しては,今般,国交省が設置する<マンションの新たな管理ルールに関する検討会>において,いわゆるコミュニティ条項の削除が議論され話題になっていますが,本件通知書には,「マンション管理に係る観点から国土交通省住宅局市街地建築課マンション政策室と協議済みであること」が申し添えられていました。

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